因子分析
【因子分析について】
調査においては、常に知りたいものを直接データとして観測することができるとは限らない。例えば「公共心」そのものを直接観測することは難しい。我々は「ごみのポイ捨てをしない」、「電車やバスの中で高齢者や妊婦に席を譲る」といった具体的な行動をもとに、「あの人は公共心を持っている(いない)」と判断しようとする。この場合、公共心を持っている人は、「ごみのポイ捨てをしない」や「電車やバスの中で高齢者や妊婦に席を譲る」といった行動をすると考えられる。つまり、観測できない公共心が、観測できる行動に影響を与えているのである。
このように、直接観測することができない未知の要因によって、実際に観測されるデータ(例:調査対象者の具体的な意識や行動)が影響を受けていると考えられるとき、未知の要因を潜在因子という。
因子分析とは、複数の観測されたデータを少数の潜在因子へと要約する多変量解析の方法である。因子分析により、直接観察することの出来ない潜在因子を発見・分析し、データ間の見えない構造(データ間の関係の有無など)を明らかにすることができる。
因子分析はさらに、探索的因子分析と確証的因子分析の2つに分けられる。探索的因子分析とは、潜在因子を見つけ出すことを目的とする因子分析の手法である。
一方、確証的因子分析とは、潜在因子についての仮説(潜在因子の数、潜在因子と観測されたデータとの関係など)がすでにあり、それを数理的に検証する因子分析の手法である。確証的因子分析の場合、潜在因子と観測されたデータの間に関係があるのかといったことに着目して分析を行う。
【どのような場面で活用されるか】
(探索的因子分析)
調査対象者の具体的な意識や行動の背景にある、見えない要因が何を探りたい場合に活用される。
具体的な例としては、購入した商品の使用方法から、消費者の潜在的なニーズを探りたい場面があげられる。この場合、購入した商品の使用方法は具体的な意識や行動に該当し、消費者の潜在的なニーズは見えない要因に該当する。
購入した商品の使用方法から、直接消費者の潜在的ニーズを探り出すことは出来ない。この際、商品の使い方という直接観測できるデータを要約することで、消費者の潜在的なニーズは何であるかを探り出すことができる。
(確証的因子分析)
調査対象者の具体的な意識や行動の背景にある、見えない要因に関する仮説がすでにあり、その仮説が妥当かどうかを探りたい場合に活用される。
具体的な例としては、物事への意識(例:環境保護への意識)という見えない要因が、具体的な行動(例:マイバッグを持参する・発泡スチロールのトレイをリサイクルボックスに出すなど)に影響を与えているという仮説がすでにあり、それが妥当かどうかを分析したい場面があげられる。
探索的因子分析と異なり、具体的な行動に影響を与える見えない要因そのものは、分析者側がすでに想定している。しかし、それが妥当かどうかについては、仮説を立てた時点では判断できない。この際、見えない要因と具体的な行動に関する実際のデータとの関係を数理的に把握することで、仮説は妥当か(見えない要因が具体的な行動に影響を与えているか)ということを探り出すことができる。
【分析例】
(新商品に対し重視する点に関する因子分析)
架空の新商品に対して、重視する点(「価格」「耐久性」「デザイン」「購入しやすさ」「アフターサービス」「安全性」「ランニングコスト」「購入時の説明」「インテリアとの調和」)を各5段階(1:重要視している~5:重要視していない)で評価した結果について因子分析を行った。
下図に示された固有値(累積寄与率)により、3つの因子までで全体の情報量の84%を要約できることがわかった。
因子分析の結果は、以下のようになった。
3つの因子は、次のように名付けることができる。
「購入しやすさ」「アフターサービス」「購入時の説明」を重視 →「販売店因子」
「インテリアとの調和」「デザイン」を重視(「価格」「ランニングコスト」を重視しない)→「デザイン因子」
「安全性」「耐久性」を重視→「品質因子」
以上より、この新商品に対する評価は、販売店、デザイン、品質という3つの因子で構成されていると考えることができる。